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2冊の震災復興状況写真帳

ウェブサイトへの記事掲載と常設展示室でのギャラリートークの連動企画「今月の逸品」は、当面の間、ウェブサイトのみでの展開とし、詳しい解説で学芸員おすすめ資料の魅力をお伝えします。

2024年3月の逸品

2冊の震災復興状況写真帳

2冊の震災復興状況写真帳

上:二周年震災復興状況写真帳 1925(大正14)年
下:三周年震災復興状況写真帳 1926(大正15)年
展示場所:2階テーマ5 現代展示室
展示期間:2024年3月1日~4月30日(予定)

 昨年、2023(令和5)年は関東大震災の発災から100年にあたりました。そこで、当館では特別展「関東大震災―原点は100年前―」を開催したところです。本稿で取り上げる2冊の写真帳も、この特別展で展示した出品資料の一つです。特別展ではその内容を十分にお伝えしきれませんでしたので、本稿で改めて紹介します。

2冊の写真帳
 1923(大正12)年9月1日に発災した関東大震災は、マグニチュード7.9と推定される巨大地震と、それに伴う火災や土砂災害、津波などによって関東地方を中心に甚大な被害をもたらしました。一方、復興の過程で現在につながる都市の骨格が形作られています。
 本稿で紹介する2冊の写真帳は、震災から2年後と3年後に東京と横浜の市街地を撮影したものです。これらの写真には復興する街並みが詳しく記録されていて、その様子を眺めると、現在につながるところが数多く確認できます。
 2冊の写真帳は、タイトルの下にいずれも「土木部工務課」と記載されています。これは、復興局の土木部工務課を指すと推測されます。復興局は関東大震災後に復興事業を担った機関で、1924(大正13)年2月に内務省の外局として設置されました。これらの情報から、2冊の写真帳は1925(大正14)年と1926(大正15)年に復興局が撮影した(または集めた)写真をまとめたものと考えられます。

写真は約100枚
 2冊の写真帳には、合計で93枚の写真が貼り込まれています。また、それぞれの写真には、撮影地点を記載した題簽(だいせん)が付されています。この情報を頼りに撮影地点別に集計すると、「二周年」の方には37枚の写真が収められ、このうち東京が29枚、横浜が8枚あります。また、「三周年」の方は、56枚のうち東京が40枚、横浜が16枚です。
 東京では、銀座や上野、浅草、江東など、横浜では山手や野毛、関内、伊勢佐木町などの写真があります。このうち「三周年」の写真帳には、旧横浜正金銀行本店本館(現当館、図1)とその周辺を撮影したものが含まれていました。旧横浜生糸検査所(現横浜第二合同庁舎、図2)の屋上から撮った写真です。
 100枚近い写真を見比べたところ、2冊の写真帳で同じ場所を撮影したものが数多く含まれていることに気づきました。復興する東京と横浜の街並みを、いわば定点観測で記録した写真であり、両者を比較すると工事の進捗状況等を詳細に把握できます。

復興状況の定点観測
 例えば、(図3)(図4)は、東京の永代橋の工事状況を写した写真です。隅田川に架かる永代橋は帝都復興事業の一環として建設されたもので、1926(大正15)年12月に竣工しました。1925(大正14)年の図3には2本の橋が写されていて、右側が仮橋、中央が関東大震災で焼損した旧永代橋です。その左側では、新しい橋の基礎を作るための工事が進められています。これは、1925(大正14)年5月から6月頃に撮影されたと推測されます(注)。
 一方、1926(大正15)年の図4では、新しい橋の工事が進捗して、アーチが立ち上げられようとしている状況が分かります。この事例をはじめとして、定点観測のセットは16組、確認できました。これらの写真からは、東京と横浜が復興する状況を段階的に記録しようとした撮影者の意図がうかがえます。街は、いつもどこかが変化しています。その全貌を記録することは、実に困難です。2冊の写真帳から、移りかわる街の様子を後世に伝えようとした撮影者の試行錯誤を想像しました。
 昨年の特別展に合わせて刊行した図録には、2冊の写真帳から48枚の写真を掲載するに留まりました。今回の展示期間中には、ページをかえながら移りかわる街並みをご紹介します。また、掲載できなかったものも含めて、当館のデジタルアーカイブ(「震災復興状況写真帳」で検索)で画像を公開していますので、ぜひご覧ください。
 能登半島の被害状況や千葉県東方沖での地震活動に接すると、私たちの暮らしは地震とともにあると痛感します。100年前の写真を通じて、災害との向き合い方についても思いを寄せていただければ幸いです。

(武田 周一郎・当館学芸員)

注:撮影年代の推定にあたっては、「土木学会附属土木図書館 デジタルアーカイブス」の関東大震災復興工事関係写真を参照しました。
http://library.jsce.or.jp/Image_DB/shinsai/kanto/index.html

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