展示

鈴木其一 鯉図

今月の逸品」では、学芸員が交代で収蔵資料の魅力を紹介します。

2019年3月の逸品(展示期間:2月27日~4月7日 ミュージアムトーク:3月20日)

鈴木其一 鯉図

鈴木其一 鯉図

気持ちよく泳いでいるけれども、ちょっと強面?(画像はトリミングしています。本物は展示室でご覧ください。)

水の中を気持ちよさそうに、静かに、滑らかに泳ぐ鯉が一匹。紙に墨でさらりと描かれた本作品は、多くの絵師たちが挑戦したありきたりな画題ともいえます。しかしながら、私はこの作品を逸品としてご紹介したく思うのです。

作者は、鈴木其一。江戸琳派の一人であり、近年、その知名度を増してきています。大きな屛風や濃彩の掛け軸などが印象深いかもしれませんが、その達者な筆さばきは本作のような小品にこそ発揮され、佳品が数多く残ります。本作もその一点と考えられ、ひどく細い縦長の掛幅です。制作され鑑賞されたであろう19世紀の日本家屋、特にその床の間に相応しいかたちとして其一が選択し、その縦長の画面により、鯉の素早い動きがより一層強調されてもいます。

ですから、よくよく画面を見ますと、邸宅内にあって肩の凝らないように、やや力を抜いた筆が特徴にもなっています。鱗を明確に描くのではなく、水気の多い墨のにじみを活かしてふくらみのある体部を描き、すらっと水流をあらわします。その柔らかさに対するかのように、顔立ちはやや強面にも見えます。そのアンバランスさもまた、見ていて、くすっと笑いたくなるような、アクセントとなっています。江戸そして明治の人々が日々の暮らしの中で、美を愛でるために描かれた作品なのです。

なお、本作品のほか、松本交山、鏑木清方の作品を同時陳列しトピック展示「江戸情緒 春の香り」をおこなっています。あわせてご覧ください。(角田 拓朗・当館主任学芸員)

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