展示

陣中見舞いにお抹茶を

今月の逸品」では、学芸員が交代で収蔵資料の魅力を紹介します。

2019年10月の逸品(展示期間:~10月下旬 ミュージアムトーク:10月16日)

北条氏直書状(本光寺文書)

北条氏直書状(本光寺文書)

天正13年(1585)閏8月28日

日本にはお世話になった方や得意先へ盆や年末、正月、また随時機会のあるときに進物を送る風習があります。戦国時代においても有力者への贈り物は大切なものでした。

今月ご紹介する資料は「北条氏直書状(本光寺文書)」です。内容は、小田原北条氏五代目当主であった北条氏直が本光寺という寺院から抹茶などを贈られたことに対する礼状です。本光寺は北条氏一門であった北条為昌の菩提寺として小田原城内に建立されたと伝わる寺院で、北条氏とは深いつながりがありました。
本資料のように物の贈答に関する資料については、背景事情を十分に読み取ることができない場合が多いため取り上げられることは少ないのですが、この資料から読み解けることを見ていきましょう。

まず、作成年月日についてです。資料に年次は明記されていませんが、閏8月28日の日付が確認されます。北条氏直が当主であった期間のうち閏8月があったのは天正13年(1585)になります(*)。そのため、この資料は天正13年閏8月28日に作成されたことが分かります。この時、氏直は真田氏が押さえていた沼田城攻略のため出陣していました。
そんな中、小田原の本光寺から抹茶が贈られてきたのです。「賞翫(しょうがん)せしめ」という文言があるので、氏直は陣中で抹茶を飲んだことが分かります。出陣中に風流なひと時があったことが想像されるところです。その抹茶ですが乾燥させた茶葉を石臼で引いたものを指します。出陣先にまで石臼を持参するのは難しいため、あらかじめ抹茶に加工した状態で陣中へと贈ったもののようです。(梯 弘人・当館学芸員)

*閏月が加えられる月は年によって異なりました。

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