展示

阿弥陀如来坐像(あみだにょらいざぞう)

ウェブサイトへの記事掲載と常設展示室でのギャラリートークの連動企画「今月の逸品」は、当面の間、ウェブサイトのみでの展開とし、詳しい解説で学芸員おすすめ資料の魅力をお伝えします。

2020年12月の逸品

阿弥陀如来坐像(あみだにょらいざぞう)

阿弥陀如来坐像(あみだにょらいざぞう)

鎌倉時代
13世紀
像高51.5cm

 今回は、阿弥陀如来坐像を取り上げたいと思います。当館の所蔵する仏像彫刻のなかでも鎌倉時代に遡る優れた作品として知られています。そのため他館の展覧会に貸し出されることも多く、自然と解説や文章を書くことも多いです。私自身、館蔵品の仏像の中でも特に好きな仏像のひとつです。この阿弥陀如来坐像についてすこし細かい部分になるかもしれませんが、形と構造についてお話していきたいと思います。
 まず、形です。みなさんは仏像をみる際にどのようにみられているでしょうか。やはりお顔をみられる方が多いと思います。手の形はどうか、立っているのか坐っているのか、というところに注目される方もいると思います。仏像の見方は、仏像を調べる研究者の中ではある程度見る順番が決まっています。仏像は、頭→顔→身に着けているもの→手→足とみていきます。仏像は宗教美術なので、ある程度形にきまりがあります。そのきまりがあるので、見方にもきまりを設けた方が理解しやすくなるのです。
 では、この阿弥陀如来像をみていきましょう。頭には丸い盛り上がりがあります(図1)。粒状にまとまった髪の毛があり、中央には赤色で丸い水晶製の部分があります。これらはそれぞれ、肉髻(にっけい)螺髪(らほつ)肉髻珠(にっけいしゅ)と呼ばれます。次に顔へと視点をうつしましょう。額に丸いものがあります。白毫(びゃくごう)といい、毛がまとまったものと言われています。ここから光を放ちます。耳たぶは輪っか状になります。首には数本のしわが刻まれています。これは三道相(さんどうそう)といいます。身に着けているものは(図2)、上半身には薄い一枚の布(衲衣のうえ)、左肩にかかって、右肩にも少し懸り、再び右肩に懸ります。下半身にも一枚の衣(くん)を巻きスカートのように着ています。手に何をもっているか、どのような手の形をしているかによって、その仏像の種類がわかります(図3)。左手は肘を曲げて手の平を上に向け膝に付けています。指は、親指と人差し指を曲げてくっつけており、他の指はのばしたままです。右手は同じく肘を曲げて、指も同じ形ですが、手のひらを正面に向けています。専門用語では来迎印(らいごういん)と言います。足は左足を曲げて甲を右の太ももにつけ、右足も同じように組みます。この足の組み方は結跏趺坐(けっかふざ)と呼びます。
 このようにみていくと、肉髻や螺髪をあらわし、布をまとっていることから、如来であることがわかります。さらに、両手の形が、親指と人差し指をくっつけた形の来迎印をむすんでいることから、阿弥陀如来であることがわかります。このような形の特徴は、ほとんどの場合、仏教のお経(経典)に記されている場合が多いです。お経には難しい漢字が多用されているため、仏像の各部名称にも耳慣れない言葉や普段使わない言葉が多く見られます。私は時々、漢字の書き方を忘れてしまうこともあります。
 次に構造をみていきましょう(図4)。この阿弥陀如来像はヒノキ材の木造です。木造の仏像の構造には、大きく3種類の造り方があり、一木造り、寄木造り、割矧ぎ(わりは・ぎ)造りです。その内、この像は、割矧ぎ造りの技法を用いています。ちょうど一木造りと寄木造りのいいとこどりをした技法で、頭と体の主要な部分を一本の木で彫り出し、その木を耳を通る線で前後に分けます。そのうえで前と後ろの材の余計な部分を取り除き(内刳り〔うちぐ・り〕)、さらに頭と体の材を割り離します。そうするとちょうど4つのパーツに分かれます。面部の材には目の部分を刳り抜き、内側からレンズ状の水晶を充てる玉眼(ぎょくがん)を用います。そして、その4つのパーツを組み合わせ、加えて手や腰脇、脚部の材を足していけば、阿弥陀如来像が完成します。
 一般的に仏像の裏側を見ることは少ないと思いますが、この裏側(像底ぞうてい)に仏像の構造の秘密があるのです。この阿弥陀如来像の像底は、ハート型のようにきれいに内刳りを施しています。このような像底を上げ底式の内刳りと呼んでいます。この技法をはじめたとされているのが、鎌倉時代に活躍した仏師運慶です。文治5年(1189)に造られた横須賀市・浄楽寺の阿弥陀如来坐像はこの上げ底式内刳りの最も古い現存作例と言われています。
 このような形や構造等から総合的に判断し、この阿弥陀如来像は鎌倉時代13世紀に造られたと考えられています。ただ、この像の伝来がわからず、もともとどのような寺院に祀られていたのかはわかりません。運慶の造った仏像に形や構造が似ていることから、鎌倉周辺に伝わったかもしれませんね。
 最近、この阿弥陀如来像に似ている仏像として滋賀・聖衆来迎寺に伝わる阿弥陀如来立像の存在を知りました(大津市歴史博物館の寺島典人氏のご教示によります)。顔の膨らみや小粒な螺髪の彫り方等、同じ作者が彫ったのではないかとも思わせられます。
 今後もさらに、この阿弥陀如来像について調べを続けていきたいと思います。(神野祐太・当館学芸員)

2020年12月26日(土)まで展示しています。

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