展示

昭和の冷蔵庫

ウェブサイトへの記事掲載と常設展示室でのギャラリートークの連動企画「今月の逸品」は、当面の間、ウェブサイトのみでの展開とし、詳しい解説で学芸員おすすめ資料の魅力をお伝えします。

2020年9月の逸品

昭和の冷蔵庫

昭和の冷蔵庫

画像右:芝浦製作所が1938(昭和13)年に発売した冷蔵庫 SS-1900
画像左:東芝が1962(昭和37)年に発売した冷蔵庫 GR-120TS

暑い日が続いていますので、涼しげな話題をご紹介しましょう。
今月から、常設展示室で2台の冷蔵庫を展示しています(図1)。
これらは、東芝と、その前身である芝浦製作所が製造したもので、2019(令和元)年に東芝未来科学館からご寄贈いただきました

冷蔵庫は、現代の暮らしに欠かせない家電製品のひとつです。
日本で国産の電気冷蔵庫が開発されたのは、今から90年前の1930(昭和5)年のことでした。
開発したのは、東芝の前身である芝浦製作所です。
国産電気冷蔵庫の誕生に先駆けて、大正時代の終わりには、アメリカGE社製の冷蔵庫が日本へ輸入されていました。
芝浦製作所は、この輸入製品をモデルにして冷蔵庫の開発に着手します。
そして、国産第1号のSS-1200が1930(昭和5)年に完成すると、1933(昭和8)年から発売されるようになりました(※1)。

その第1号の後継機にあたるのが、冷蔵庫SS-1900です(図1右)。
横幅72cm、奥行56cm、そして高さは167cm。
重量感のある大きな姿のなかでも、特に目立つのが本体の上部にある大きな丸い物体です。
ここには、冷蔵庫内を冷やすための装置であるコンプレッサーなどが備え付けられていました(図2)。
また、内部は至ってシンプルです(図3)。

この冷蔵庫SS-1900が発売されたのは、1938(昭和13)年のことです。
冷蔵庫の全国普及台数は、1937(昭和12)年には1万2,000台程度(※2)。
全国の世帯数は、1935(昭和10)年に約1,338万世帯、1940(昭和15)年に約1,422万世帯でした(※3)。
単純に計算すれば、約1,000世帯に1台の割合です。
当時の電気冷蔵庫は主に富裕層やレストランなど限られた範囲で利用されていて、一般家庭に普及していたわけではありませんでした。
そのため、一般家庭での普及率は、さらに低かったといえます。

続いて、もう1台の冷蔵庫をご紹介しましょう。
東芝が1962(昭和37)年に発売した冷蔵庫GR-120TSです(図1左)。
横幅55cm、奥行49cm、そして高さは118cm。
扉を開けると、ドアポケットや卵入れなど、見慣れた冷蔵庫の形になっています。また、庫内の上部には冷凍庫があり、淡いブルーの色使いがおしゃれです(図4)。
SS-1900の発売から24年の間に、家電製品の製造技術が大きく進歩した様子がわかります。

それでは、当時、冷蔵庫は家庭にどれくらい普及していたのでしょうか。
答えは約3割です。
1950年代後半になると、冷蔵庫は、洗濯機と白黒テレビとともに「三種の神器」と呼ばれるようになりました。
しかし、これらの家電製品は憧れの対象であり、人々の生活に浸透していたわけではありませんでした。
統計調査によると、冷蔵庫の普及率は1957(昭和32)年に2.8%。そして、GR-120TSが発売された1962(昭和37)年には28.0%でした(※4)。
その後は、東京オリンピックが開催された1964(昭和39)年に38.2%、翌年には51.2%になりました。
さらに、1971(昭和46)年には91.2%に達し、この頃には各家庭にほぼ1台という状況になっていたのです。

現代社会で当たり前のものとなっている家電製品が、どのようにして当たり前になったのか。
約80年前と約60年前に発売された2台の冷蔵庫を通じて、ごく簡単に振り返ってみました。
冷蔵庫がない生活から、冷蔵庫が当たり前の生活へ。
その移り変わりを考えると、ある歴史家の言葉が思い起こされます。
「くり返されるものがくり返されなくなり、新しいくり返しへ移り変わるところに歴史がある」(※5)
そう指摘したのは、中井信彦という歴史家でした。
博物館にあるたくさんの資料は、「くり返しの移り変わり」を物語っています。
今回ご紹介した冷蔵庫も、単に過去を懐かしむためのものでなく、「くり返しの移り変わり」を物語る資料として意義深いのです。(武田 周一郎・当館学芸員)

※1 東芝未来科学館 1号機ものがたり 日本初の電気冷蔵庫
https://toshiba-mirai-kagakukan.jp/learn/history/ichigoki/1930refrige/index_j.htm

※2 東芝 東芝電気冷蔵庫75年の歩み
https://www.toshiba-lifestyle.co.jp/living/exhibition/history/refrigerator.htm

※3 各年次の国勢調査より。政府統計の総合窓口(e-Stat)
https://www.e-stat.go.jp/

※4 各年次の消費動向調査より。内閣府 統計表一覧:消費動向調査 主要耐久消費財等の普及率
https://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/shouhi/shouhi.html

※5 中井信彦『歴史学的方法の基準』塙書房、1973年、146頁。

ページトップに戻る