3 近世の鎌倉彫

3 近世の鎌倉彫

前へ 次へ
牡丹文香合
牡丹文香合

 桃山時代から江戸時代にかけては、鎌倉彫の中国風の作風が好まれ、多種多様な器物がさかんに制作されました。こうした制作と受容の場の広がりによって、鎌倉彫は広く一般化、大衆化していきました。
 特に、茶道具に用いられ、茶の湯の文化と接点を持ったことが、鎌倉彫の展開に大きな影響を与えました。鎌倉彫の茶道具としては、台子や卓、茶入や盆などが伝わっていますが、最も大量に作られたと見られるのが香合です。これらは袖香合とも呼ばれ、寺院の仏殿などで用いられる大香合とは異なり僧侶が携行するような小型のものであったものが茶器に転用され、やがて茶器専用の香合として作られるようになったものです。
 今に伝わる作品を見ると、中国の彫漆の精緻さを受け継ぐ大香合とは異なり、簡略な彫り口が茶人好みの渋さを醸し出しています。彫漆の代替として始まった木彫漆塗の鎌倉彫ですが、この時代の鎌倉彫では木彫漆塗の風合いが自立し、簡素で大胆な美を示す独特の作風を獲得するに至ります。