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青木文庫

ウェブサイトへの記事掲載と常設展示室でのギャラリートークの連動企画「今月の逸品」は、当面の間、ウェブサイトのみでの展開とし、詳しい解説で学芸員おすすめ資料の魅力をお伝えします。

2022年5月の逸品

青木文庫

青木文庫

青木文庫 トピック展示「美術図書を観る」

 今月の「イッピン」というと、1点の資料・作品を、その音で想像する人が多いようです。そういう思いでこれまで紹介されてきた記事もたくさんありますが、今回は、あえて1点ではないたくさんの「イッピン」、そして本当に他のコレクションと比べて素晴らしいという意味での「イッピン」、品が上品だ下品だという価値基準を超越するという意味での「イッピン」です。ご紹介したいのは、青木文庫。昨年暮、第一次分として、収蔵資料に加えて2000冊をこえる図書類です。これにより、当館の近代資料、美術に関する蔵書は大きく充実しました。この小文では、収集者について、そのコレクションの特徴について、そして今おこなわれている展示について、簡単にご説明します。
 故青木茂氏(1932~2021、画像右)は、近代日本美術史研究の泰斗でした。氏は元神奈川県立近代美術館の学芸員で、明治の洋画家高橋由一を柱とする明治美術の研究を確立しました。関連して当館近代美術コレクションの中核である五姓田派の研究も展開され、昭和61年開催の特別展「明治の宮廷画家 五姓田義松」、平成20年開催の特別展「五姓田のすべて」ほか、当館の展覧会や研究にも多大なるご協力をいただきました。
 他方、古書蒐集家としても青木氏は著名でした。書痴と称し、古書についての著作も複数あります。それも研究と連動しており、明治時代のあらゆることを知りたいと、図書を手にとり耽溺することを良としました。ですから、そのコレクションの内容は多岐にわたります。美術史の研究者でありましたから、確かに美術関係の図書が充実しています。ただ、明治期に発行された図書ならば、およそ何でも関係があると考え、また関連する前後の時期の図書も集めました。さらに考古学や民俗学、社会運動などいくつか興味関心が集中する領域もあり、それに関する図書も充実しています。とても一言ではまとめられない、質と量、種類を誇る滋味深いコレクションです。そのため、ひろく人文科学の調査研究に寄与して欲しいと、人文系の総合博物館である当館に、その蔵書群が託されたのです。これにより当館の調査研究が深まり、また多くの方々へ提供できる情報が増えることを、担当としてうれしく思います。
 さて、とはいえ当館は博物館ですから、図書館同様の形式でその図書類を多くの方に閲覧公開することは難しくあります。将来的な課題として、継続的に検討を続けていこうと考えています。ただ、このイッピンをそのまま収蔵庫に眠らせておくのは忍びなく、この寄贈をうけて4月末からおよそ1年間をかけて、トピック展示「美術図書を観る」(画像)を開催いたします。図書ならば「読む」としたいところですが、観て楽しい、どのような図書があるのか、その外見や内容の一部からだけでも味わって欲しいという意図のもとの展示です。内容を知りたい、読みたいという方は図書館や古書店などで探索もしてみてください。展示から始まる、新たな物語が生まれることも願ってやみません。その誘いこそが、展示そして図書の大いなる役目だと思いますから。(角田 拓朗・主任学芸員)

※当館には、故青木ヨシ氏からご寄贈いただいた図書資料「青木文庫」があり、ミュージアムライブラリーで公開しています。ここでご紹介した故青木茂氏より博物館資料としてご寄贈いただいた資料群は、すでにある「青木文庫」と名称が重複しますが、故青木茂氏が当館への寄贈に先立ち、神奈川県立近代美術館へ寄贈した資料群が「青木文庫」として受け入れられていることから、当館でも「青木文庫」と統一してその名称を用いることとしました。

【参考文献】
青木茂氏の編著の一部です。
『高橋由一油画史料』中央公論美術出版 1984
『油絵初学』筑摩書房 1987
『美術の図書旧刊案内 木茂先生(快)談義』三好企画 1995
『書痴、戦時下の美術書を読む』平凡社 2006

青木茂氏が、かつてご自身の仕事を回顧したインタビュー記事は以下に収録されています。
「真明解・明治美術」展図録 神奈川県立歴史博物館 2018

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