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第19回 詞書もお見逃しなく
2015.12.11
 聖絵展会場には、展示中の4巻の絵を拡大印刷したパネルを掲示しています。高精細写真を大型プリンターで印刷したものですが、拡大しても画面が荒れることなく、細かな筆致まで見ることができると好評をいただいております。偶然なのですが、使用したロール紙もやわらかい質感でインクの馴染みがよく、しっとりとした画面の魅力を伝えてくれています。
 展覧会も今週末までとなりました。拡大パネルも活用しつつ、作品そのものので味わっていただきたい見どころを1つ、ご紹介します。
 美しい風景表現や、活写される人々の様子も魅力の一遍聖絵。どうしても絵にばかり目がいってしまいますが、絵と対になる詞書の部分にも注目してください。
 詞書も絵と同様、絹地に記されているのですが、絹地を青や赤、緑、白などの色で塗り、その上に草花や流水などの地模様を描いた上から、当時の能書家によって文字が書かれています。地色の配色はアトランダムに見えますが、例えば、第六巻第四段、尾張甚目寺の場面では、絵の中では木々が紅葉しており、それに呼応しているのか、詞書は赤の地塗りがほどこされています。
 地模様は絵の具の剥落や、そもそも地塗りの色と同系色で描かれていてわかりにくいのですが、例えば第五巻第二段、下野国小野寺の場面の詞書では白地に白で梅の枝が描かれています。目が馴染んでくると、梅の花の可憐な風情がおわかりになるでしょう。
 絵巻を長く広げて展示しているからこそ、詞書と絵が連なり紡がれる美しさを堪能できます。会期もあとわずかですが、じっくりご覧になってみてください。(K)

第18回 一遍聖絵スタンプラリーをまるっとコンプリート
2015.12.08
 当館の「国宝 一遍聖絵」展も12月13日(日)まで。会期はあとわずかとなりました。結局今まで展示も見に行けていないし、スタンプラリーもぜんぜんダメだーという方向けに、今回は一日で全館制覇達成のモデルコースご提案とまいりましょう。
 ラリー台紙は藤沢駅にある観光案内所 “湘南FUJISAWAコンシェルジュ” と、上野の東京国立博物館本館1階インフォメーションの2カ所のみ。どちらかに行く必要があります。ここは、とりあえず9時30分から東京国立博物館でしょう。本館2階にある特別室2室では東博本「一遍聖絵」第七巻に加え、模本で「一遍聖絵」の全体像が見渡せますから予習にはもってこいです。大倉集古館所蔵の「石清水八幡曼荼羅図」(重文・鎌倉時代)なども展示されているので、見ごたえ十分。ラリー台帳と押印をお忘れなく。
 上野駅から上野東京ラインに乗れば横浜駅まで30分強。根岸線に乗り換えて桜木町駅か関内駅下車で神奈川県立歴史博物館まで15分もあれば十分です。鑑賞後は博物館周辺でランチといきましょう。周辺には気の利いたお店がたくさんあります。
 次に向かうのは県立金沢文庫です。なぜ遊行寺宝物館ではないのか。閉館時間を考慮しました。ハードルが高くくじけそうになりますが金沢文庫を目指します。横浜駅に戻ってもよし、市営地下鉄関内駅から上大岡駅で乗り換えてもよし(上級者向け)、時間はそれほど変わりません。金沢文庫駅からも少々遊行してください。県博からは50分をみてください。
 金沢文庫と称名寺の境内を楽しんだら、最終目的地遊行寺宝物館です。京急快特で横浜駅まで戻って東海道線でも、上大岡駅で市営地下鉄経由戸塚駅乗り換え(上級者向け)でも、時間・料金ともに大差はありません。歩く時間を考えると、文庫から宝物館まで1時間と少々みておいたほうがよいかも。JR藤沢駅に着いたら、改札出て右手の「湘南FUJISAWAコンシェルジュ」に立ち寄ることをお忘れなく。チェックポイントの一つです。遊行寺までは遊行通りを歩くとなごみます。ラリーは遊行寺宝物館で上がりです。最終入館時間は16時30分。景品をゲットしてください。藤沢には面白いお店もたくさんありますよ。
 なお、遊行寺宝物館のみ12月14日(月)まで開館です。「一遍聖絵」をじっくりと観すぎて、どうしても一日でのコンプリートが無理だった方は、貴重なこの一日を活用する手もあるのです。ちなみに台紙は8日現在、まだけっこう残数あるとのことです(^^;)。(F)

第17回 県博セミナー第2回
2015.12.04
 11月29日(日)、県博セミナー「一遍聖絵を旅する」第2回を開催しました。
 今回の講師は、奈良国立博物館 谷口耕生先生です。「一遍聖絵の名所描写」と題して、お話をいただきました。
 聖絵に表された、歌枕の地、寺院、神社の描写をご紹介いただいたのち、お話は、平安時代から描き継がれてきた名所絵の伝統とのかかわり、四天王寺や熊野三山などの景観を描く社寺曼荼羅から社寺を描く「型」を踏襲することの意味へ。聖絵に先立つ時代の作品との関係や絵師たちの活動、一遍と同時代に念仏を勧めて歩いた聖たちの動向の中で、聖絵制作の環境や思想的な背景を探るお話は、とても刺激的でした。聖絵という作品が、さまざまな伝統や背景と、時代の空気や新しい文化とが融合した魅力的な作品であることを感じた2時間でした。
 11月15日に東京国立博物館で開催された記念シンポジウムで、五味文彦先生が「解明されることが増える一方で、謎が深まることもやはり聖絵の魅力である」とお話されていました。奥深い魅力に溢れた聖絵の展覧会にかかわることのできる幸せを、改めて感じています。

 谷口先生がいらっしゃる奈良国立博物館では、来春、日本三大絵巻の一つに数えられる国宝「信貴山縁起絵巻」の特別展が予定されています。

国宝信貴山縁起絵巻 朝護孫子寺と毘沙門天王信仰の至宝
2016年4月9日(土)〜5月22日(日)

聖絵に浸ってお正月を迎える皆さま、こちらの展覧会にもぜひお運びください。(K)

第16回 “一ッ火”に参加してきました
2015.12.03
 先週の金曜日、11月27日に時宗総本山清浄光寺(遊行寺)で行われた“一ッ火”に参加してきました。この行事は歳末別時念仏会(さいまつべつじねんぶつえ)ともいい、かつては年末に行っていたものです。別時念仏は、祖師命日などに一定の期間行う念仏三昧の修行をさしますが、歳末別時念仏は特に重要な三大行事の一つとして厳修されています。
 お寺に着いたのは四時半を少し過ぎた頃。あたりはまだ明るく遊行寺の銀杏は黄金色に色づいていました。五時を過ぎると、辺りは急に暗くなり、それとともに“一ッ火”参加者が集まってきて本堂には行列ができています。境内には大型バスもちらほら。全国の末寺から、檀信徒団体参拝の方々が訪れているようですが、一般の参加者も大勢います。
 六時からいよいよ別時念仏会が始まりました。十八念仏から独特の節回しの念仏(アミ引きダ張り念仏)が延々と唱えられます。その最中には浄土往生のための実践行を表現する宗教的所作が続きます。現在では室内の儀式ですが、堂内には造りものの松が供えられ、雪を模した綿が載せられます。遠くではしんしんと降る雪を表現する太鼓の音が。降り積もる雪を箒で払う役僧の所作もあります。何とも劇場的な行事で、松岡心平氏が踊り念仏をして「演劇としての宗教」と指摘したことが、ここでもあてはまります。
 後段は“一ッ火”、すなわち御滅灯(おめつとう)です。堂内の灯は一つずつ落とされ、最後の一灯が摘み取られると、漆黒に包まれます。微かに念仏がひびく中、カチッと火打ち石で生み出された灯は報土(極楽)に見立てた内陣に点されます。穢土(娑婆)に見立てた外陣の後灯(ごとう)にも明かりがともります。儀式ですから写真はありません。
 三時間以上にわたる行事の終了後、当代遊行上人から念仏の札をいただき結縁します。「南無阿弥陀仏 決定往生 六十万人」。ありがたや、ありがたや。今回は特別に檀信徒さんと小豆粥をいただいて、遊行寺をあとにしたのでした。(F)

第15回 いまさらですが、県博展示のご紹介
2015.12.1
 11月21日(土)にスタートした神奈川県立歴史博物館の展示ですが、まだきちんとこのブログでご紹介していないことに気づきました。いまさらですが、第2会場(県立歴史博物館)の見どころについてご紹介いたします。
 すでに広報でご承知とも思いますが、当館では「一遍聖絵」の第四、五、六、十巻を展示しています。第四巻と第五巻は武士の館や市場がたくさん描かれている巻で、筑前(福岡県)武士の館、備前(岡山県)福岡の市と吉備津神社神官子息の館、信濃伴野の市と小田切の武士の館、信濃佐久の武士大井太郎の館などが次から次へと登場します。第五巻の最後は一遍さんが鎌倉入りを太守(北条時宗とも)から拒まれている有名な場面で、神奈川県にもっともゆかりのある場面です。いずれも鎌倉時代の地方武士の暮らしぶりを伺うことができる場面ですから、日本史の教科書や一般書の挿図などでもよく目にする部分です。
 神奈川県ゆかりといえば、第六巻の冒頭も藤沢片瀬の浜の踊り念仏から始まります。踊り屋で踊る一遍ら時衆とそれをとりまいて見物する人々の密集感は圧巻です。この巻は、一遍の上洛へとつながる巻ですから、三嶋社、富士山、尾張(愛知県)甚目寺の風景を観てゆくことができます。また、第十巻は備中(岡山県)から備後、安芸(広島県)、伊予(愛媛県)にかけての風景で、備後一宮、厳島社、大三島社が細密に描かれています。最後にくる大三島社は伊予出身の一遍生家、河野氏ゆかりの社でもあります。名所が連なる「一遍聖絵」を観ていると、鎌倉時代の各地の名所を自分が旅している気分になります。書籍の挿図では一場面しか掲載されていませんが、実際の絵巻を見ると連続的な場面の中でみることができ、その描かれた意味がよりはっきりとします。
 この他、初公開である元亀二年(1571)の墨書を持つ阿弥衣(あみえ・時衆の僧衣)や、一遍上人の骨壺なども関連作品として展示されています。会期もあと二週間をきりました。是非お見逃しのないように。(F)

第14回 県博セミナー第1回&記念講演会
2015.11.27
 県博会場の展示がオープンした週末、講演会を二つ、早速、開催いたしました。
 11月22日(日)、県博セミナー「一遍聖絵を旅する」第1回には、同志社大学教授 鋤柄俊夫先生にお越しいただき、「描かれた中世都市と中世遺跡」と題してお話しいただきました。
 聖絵に描かれた場所がどのような場所であったのか。交通の要であり人々が集う宿(しゅく)や市(いち)、武士の館、そして都市の姿を、実際の地形とも照らし合わせながらのお話、描かれた土地を訪れて中世社会の雰囲気を感じてみたい!と思いました。
 23日(月)の記念講演会では、時宗教学研究所顧問・真光寺ご住職 長島尚道先生から「一遍聖絵の魅力」と題してご講演をいただきました。
 真光寺(神戸市)については第8回と第12回で担当Fがご紹介しましたが、ご住職として一遍さんのお墓をお守りしていらっしゃるのが長島先生です。講演会では、一遍さんの教えを、やさしい言葉と、よく通るお声でお話くださいました。最後には、なんと!参加者全員に、先生から「南無阿弥陀仏 決定往生 六十万人」の念仏札をお配りいただきました。一遍さんが念仏を勧めるために始めた賦算(お札くばり)は現在も行われていますが、遊行上人と長島先生のような限られた方のみが配ることのできるもの。講演会のご縁が一遍さんとの結縁となりました。
 両講座とも人気で、残念ながら抽選にもれた方もいらっしゃったようです。鋤柄先生、長島先生のご著書はミュージアムショップでもご紹介しておりますので、お手にとってみてください。(K)

第13回 記念シンポジウム
2015.11.17
 11月15日(日)、上野の東京国立博物館平成館大講堂にて、「国宝 一遍聖絵」展開催記念シンポジウム「国宝 一遍聖絵の全貌」が開催されました。
 聖絵については、時宗の開祖一遍上人の行状を描く宗宝として、日本の美術史に冠たる作品として、さらには、当時の生活や習俗、建築、景観を伝える精緻な描写に歴史学や考古学、民俗学の立場からも‘熱い’視線が注がれてきました。
 シンポジウムでは、五味文彦氏の基調講演ののち、美術史から、相澤正彦氏、瀬谷愛氏、梅沢恵氏、宗教史から遠山元浩氏、芸能史から松岡心平氏、服飾史から佐多芳彦氏、建築史から冨島義幸氏と、研究の歴史を踏まえて、さらに最新の研究成果を盛り込んだ、7本の報告がありました。進行役は、県博担当Fがつとめました。
 討論会では、会場からの質問にお答えしながら、それぞれの研究分野から見る聖絵の魅力が語られました。最後「ぜひ見てほしいところは?」との問いかけに、先生方も「選べない」と悩みつつ、8人8様の聖絵の魅力を紹介いただきました。
 400席もある大講堂が、朝の開始時にはほぼ満員となり、たくさんの方々が討論会の終了まで熱心に受講いただきました。東博で開催中の特集展示「一遍と歩く」にも多数のご来場をいただいたようです。
 担当Kも会場係としてお手伝いしてきました。行き届かないこともたくさんありましたが、さまざまな研究分野が注目する聖絵の深遠な魅力を改めて感じることのできる一日をお届けすることができたのでは、と思っています。ご来場ありがとうございました。(K)

第12回 初公開!一遍上人の骨蔵器
2015.11.13
 本ブログ第8回「一遍さん終焉の地」で訪れた神戸真光寺。じつは今回の展示で、すごい遺物をご出品いただいているのです。ズバリ、それは一遍上人のお骨をお納めしていた骨壺です。
 「一遍聖絵」によれば、兵庫観音堂で入滅した一遍は、自分の亡骸を「野にすてて、けだものにほどこすべし」と、葬礼を望まなかったようです。そうはいっても、慕われていた一遍さんですから、「在地人等あつまりて御孝養したてまつるべきよし」申し上げ、松の木のもとで荼毘に付して「墓所荘厳」したとされています。現在、真光寺境内には一遍上人御廟とされる一角があり、その奥に一遍さんの石塔がたてられています。
 平成7年(1995)の1月17日に発生した阪神・淡路大震災では、この石塔も被害を受けて倒壊しました。奇しくも石塔内部から骨壺が現れ、中には遺骨も残されていたとされています。骨壺は出現の際に割れてしまいましたので、ご遺骨は新調された容器に移して石塔に再度お納めされ、割れた骨壺は修復されて寺内でお護りされていたのです。この骨壺、いわば時宗開祖の聖遺物であり、今回の展示にあわせて特別に御出陳を賜りました。
 骨蔵器、すなわち骨壺といえば、鎌倉などでは大陸からもたらされた青磁酒海壺や、瀬戸製四耳壺などの転用が想起されます。いずれも武士や高僧らの遺骨を納めているものでしょう。これに対して、一遍さんの骨壺は備前製の小型のものです。一遍さんの生まれ故郷である松山道後(愛媛県)の国指定史跡湯月城跡からは、生活器として非常に似た備前小壺が見つかっています。一遍さんには備前の壺はなじみ深いものだったのでしょうか。捨聖一遍らしい質素な骨蔵器ともいえます。(F)

第11回 スタンプラリーで歩こう
2015.11.10
 東京国立博物館の特集展示「一遍と歩く 一遍聖絵にみる聖地と信仰」オープンに合わせて、11月3日(火・祝)より、スタンプラリー「一遍と歩こう」も始まりました。遊行寺宝物館、神奈川県立歴史博物館、神奈川県立金沢文庫と東京国立博物館の4館をめぐって、国宝「一遍聖絵」全12巻+1巻をコンプリートしていただく企画です。
 とは言え、どこから訪れたらよいのか…。そこで、上野発のルートの提案です。
 ラリー台紙は、東博と、藤沢駅の湘南FUJISAWAコンシェルジュで配付しています。限定10,000枚。上野では、東博本館2Fの特集展示を見て、1Fインフォメーションで台紙とスタンプをゲットしましょう。
 ラリーポイントは、4館にコンシェルジュを加えた5か所。現在コンシェルジュ、宝物館でもスタンプ押印できます。藤沢では、藤沢駅南口コンコース2Fのコンシェルジュで忘れずに押印を。
 展覧会がこれからオープンする金沢文庫で押印できるようになるのは19日から、歴史博物館は21日からで、両館とも12月13日で終了です。
 コンプリート記念の品は宝物館でのみ受け取れます。12月14日までにスタンプの揃った台紙をお持ちになり、記念品を受け取ってください。
 宝物館、歴史博物館、金沢文庫では台紙提示で観覧料が割引になりますので、公開中の聖絵を‘何遍でも’。江ノ島のサムエル・コッキング苑と岩屋も割引になりますから、秋の藤沢を満喫できます!
 短期間でコンプリートしてしまう強者もいらっしゃるかもしれませんが、せっかくの機会です。スタンプラリーをきっかけに、聖絵に浸り湘南を歩く秋をゆっくり楽しんでください。(K)

第10回 東京国立博物館の連携企画「一遍と歩く」はじまる
2015.11.6
 11月3日(火・祝日)より、東京国立博物館で特集展示「一遍と歩く 一遍聖絵にみる聖地と信仰」がはじまりました。展示は本館特別室(1・2室)で行われており、模本による「一遍聖絵」全巻の概要もわかりますので、とてもお得。総合文化展(いわゆる平常展)の料金で観覧することができます。
 見どころはなんといっても、同館所蔵の「一遍聖絵」第七巻。この巻は全十二巻から伝来の過程で分割され、絵第一段から四段と、詞書第四段が後補の詞書とあわせて一巻に仕立てられています。11月16日(月)まで遊行寺宝物館で展示の全十二巻と(以降は3館で展示になります)、この一巻を見ることで真の全巻コンプリート=制覇となるわけです。
 第七巻には、一遍が近江(滋賀県)から京に入り、四条京極釈迦堂、因幡堂、六波羅蜜寺、空也上人遺跡、洛西桂へと巡る様子が描かれています。四条釈迦堂では、一遍による賦算にあずかろうと門前市をなす人々の描写が圧巻(写真は遊行寺本)。ひしめく牛車は、一遍が高位者からも受け容れられていたことを物語っています。四条京極といえば、現在でも京都で一番の繁華街。修学旅行生にもおなじみの寺町通り近く、四条通りに面した甘栗屋さんの店の奥がそのまま染殿院という場所につながっていて、どうやらここが当時の釈迦堂のよう。りっぱな石碑が建っています。
 東京国立博物館での連携企画・特集展示とともに、スタンプラリー「一遍と歩こう」もスタート。台紙は東京国立博物館(本館インフォメーション)、湘南FUJISAWAコンシェルジュの2カ所でのみ配布しています。一遍のことがよくわかってしまうこのラリー。是非ご参加ください。(F)

第9回 第1会場が展示替え
2015.10.30
遊行寺宝物館ホームページ掲載の「本日の展示」  11月を前にして、遊行寺宝物館(第1会場)は展示替えです。11月16日(月)まで聖絵全12巻を展示中ですが、ご覧いただける場面が替わりました。展示場面のお知らせがでています。16日までの間にも場面替えがありますので、よくご確認ください。

遊行寺宝物館リニューアルオープン記念 特別展「国宝 一遍聖絵」
http://homepage2.nifty.com/yugyoji-museum/tenran.htm


 第一巻は、一遍が生まれ育った伊予を旅立つ場面に替わりました。咲き誇る梅の花が印象的な冒頭の第一段です。第四巻は、有名な、備前福岡の市の場面が登場です。留守中、一遍に帰依して出家した妻に驚き、追いかけてきた吉備津宮神主の子息との対決場面ですが、市に集う人々の活気溢れる様子、売られている米や魚、大甕などの描写も見どころです。
 今回の展示替えでは、一遍が訪れた寺院や神社の風景が各巻で見られるようです。第二巻は四天王寺、第五巻は下野小野寺、第六巻で伊豆三嶋大社、第八巻は聖徳太子墓、第九巻では播磨国書写山へ、第十巻は大三島の大山祇神社、第十一巻で淡路の志築天神。各地の寺社へ参詣する一遍さんを追いかけて、画中に旅情を感じるのも良いかもしれません。

 さて、11月1日(日)Eテレ「日曜美術館」(9:00〜10:00)のアートシーンというコーナーで、遊行寺宝物館の展示が紹介されます。3日(火・祝)からは東京国立博物館の展示がスタート。スタンプラリーも始まります。
 新たな展開を見せる「国宝 一遍聖絵」展。ふたたびのご来場もお待ちしております。お見逃しなく。(K)

第8回 一遍さん終焉の地
2015.10.29
 県立博物館(第2会場)での展示も始まっていないのに、終焉について語るのもなんですが、「一遍聖絵」の場面にちなむ学芸員FとKの遊行の旅、その第3弾です。

 一遍さんは、兵庫観音堂で51歳の生涯を終えています。亡骸は荼毘に付され、在家の人々によって墓塔が設けられたことが「一遍聖絵」には記されています。この観音堂には「光明福寺」と注記がありますが、現在の真光寺がこのお寺に相当するとされています。真光寺はJR兵庫駅から10分ほどのところにあり、終焉の地という先入観からか、周囲は何となく寂しげな街並み・・・と思いきや、お寺に近づくと「清盛塚」なるものがあるではありませんか。他にも中世の石塔がたくさんあり、石塔好きの担当Fはドキドキします。そのすぐ近くには橋があり、なんと名前が「大輪田橋」・・・感激です。まったく不勉強だったのですが、一遍さん終焉の地は大輪田泊(おおわだのとまり)の目と鼻の先だったのです。

 大輪田泊は平安時代の末期に平氏政権が修築、整備した港。平氏の拠点福原からも近く、大陸の文物がもたらされた国際港でもありました。いまでこそ神戸の賑わいは神戸、三ノ宮に移っていますが、平氏政権亡き後とはいえ、一遍さんの時代には貿易港として相当な賑わいであったはずです。市聖(いちのひじり)空也を崇敬していた一遍は、諸処の市場で布教を行い、その場面が「一遍聖絵」には描かれています。一遍終焉の地は、そのような遊行を続けた一遍にふさわしい場所であったともいえるのです。

 一遍の終焉を描く第十二巻、11月20日以降は遊行寺宝物館(第1会場)で展示されます。また、真光寺ご住職長島尚道師による記念講演会が神奈川県立歴史博物館で11月23日(月・祝)に行われます(申込み締切りは11月9日必着)。詳しくは行事案内をご覧ください。(F)

第7回 金色の奥州路
2015.10.27
 東北への遊行を描く聖絵第五巻の図録コラムを担当したこともあり、9月の末、担当Kは、岩手県北上市を訪ねました。
 弘安三年の秋、一遍一行は白河の関を越え、奥州江刺郡に祖父河野通信の墓を訪ねました。通信は、承久の乱で後鳥羽上皇方について敗れ、平泉に配流となって彼の地に歿しました。一行は墓に詣でると、草を払い、経を読み、念仏をして通信の供養をしました。聖絵第五巻第三段には、土を盛った墳墓を囲んで祈りを捧げる一行の姿が描かれています。脇には小川が流れ、田圃では豊かに実った稲が頭を垂れています。
 北上市稲瀬町。北上川の東岸、山地に続く穏やかな丘陵の中腹に、通信の墓と考えられている「ひじり塚」があります。葡萄畑の広がる斜面の小道を少し下った先に、ゆるやかな正方形をした塚がありました。
 周囲には溝が掘られ、塚の上には一本の松の木が根を張っています。塚の一辺は急な斜面で落ち下っており、その下には小川が流れていました。絵に見るほど平坦な土地ではありませんでしたが、小川に面した地形は通じるものがあります。聖絵に描かれる遊行の地の中では最北の場所。お祖父さまにも展覧会のご加護をお願いしてきました。
 数日続いた雨の上がった日曜日、周辺の田圃では稲の刈り取りが始まっていました。畑の林檎も色づいています。山道に入れば、栗や胡桃、山法師の実が落ちていたり、柄の長い枝剪り鋏であけびの実を採る土地の人の姿も。金色に染まる景色の中、一遍さんも実りの季節を迎えた奥州路を歩まれたのかな、と、思いを馳せた旅でした。(K)

第6回 ぜひとも行きたい菅生の岩屋
2015.10.23
 「一遍聖絵」第二巻は伊予国(愛媛県)浮穴郡にある「菅生の岩屋」参籠から始まります。詞書には「観音影現(ようげん)の霊地、仙人錬行(れんぎょう)の古跡」とされる岩屋寺。画面を見ると、峻険な岩山の諸堂にはしごが懸かり、参詣者の姿も描かれています。山中の景色は水墨画的に幾分粗く描かれる一方、不動堂と仙人堂は細密に描かれ、内部には籠もる一遍と聖戒の姿が。画面全体では緻密さと荒々しさが不思議と破綻なく調和し、「一遍聖絵」の写実的とも理想的ともとれる独特な雰囲気は、この調和の妙によってもたらされています。

 奇巌怪石の風景に惹かれて、担当者Fは7月にぶらりと現地を訪ねてみました。海岸山岩屋寺は松山市内から車で1時間ほどの久万高原町に所在します。お寺は四国巡礼の第四十五番札所になっていて、お遍路さんの姿も。駐車場に車を止め、数軒の土産物屋を横目に参道を登り始めると、参詣帰りの人たちが「脚が痛い」などといっています。いやな予感・・・。結論からいうと、日頃運動不足の担当Fには大変な苦行でした。いや、こんなことで苦行などといったら一遍さんに叱られますね。無事お寺に辿り着き、不動堂にお参りした勢いで仙人堂跡まで上がったものの、下を見るとゾっとしました(反省)。とはいえ、「一遍聖絵」が原風景を比較的忠実に描いていることがわかったのは収穫でした。

 菅生の岩屋場面(第二巻第一段)は遊行寺宝物館(第1会場)で10月26日(月)まで展示されています。また、11月19日からは神奈川県立金沢文庫(第3会場)で展示される予定です。現地に行ってみるもよし、「一遍聖絵」を観て旅行気分を味わうもまたよし・・・、かと。(F)

第5回 夏の名残り
2015.10.20
 聖絵展担当FとKを含む数人の学芸員で使っている業務室で、夏の名残りを見つけました。聖絵展展覧会図録の工程表と、作業の済んだ校正用紙です。
 聖絵展では、第1会場の遊行寺宝物館の開会ののち、1ヶ月ほど過ぎて第2会場の県博、第3会場の神奈川県立金沢文庫の展示がスタートします。第1会場の開会に合わせて、図録の編集作業は、県博単独で開催する展覧会の時より1ヶ月早く進んでいました。
 今年もやはり暑かった7月から9月にかけて、老朽化で冷房のききづらい中、図版の準備、原稿の整理、割り付け、デザインの検討、校正…、「究極の一冊」を作るための日々でした。編集を担ったFの‘思い’は第2回をご覧ください。
 工程表には赤ペンや鉛筆の書き込みが。なかなか計画通りには進まないものです。聖地熊野の「神さんま」は、文庫担当Uからいただいたもの。
 校正用紙、図録はできあがりましたが、何かあったときのために(何もないでほしい…)、展覧会終了まで、一応、まとめてとっておきます。学芸員はわりと心配性なイキモノです。
 朝方、蝉の声を聞くと、夏の終わりを実感して急かされる、とはFの談。ちなみにKは、時節を違えず一斉に咲き出す彼岸花にプレッシャーを感じることがあります。展覧会の準備には時間がかかるもので、その間に季節は移り変わっていきます。
 名残りの10月も半ばを過ぎました。月がかわれば、県博会場の開幕準備も佳境です。実り多き秋になりますように。(K)

第4回 ??(-_-)?わからん
2015.10.16
 第1会場遊行寺宝物館で展示が始まった「国宝 一遍聖絵」展ですが、全十二巻もあるだけに、いつ行けばどこが見られるのか?についてのご質問もきています。このところ担当Fがよくいただくご質問とお答えを2つ。

Q:「一遍聖絵」第七巻は11月3日(火)以降、遊行寺宝物館と東京国立博物館のどちらで展示されるのでしょうか?
A:両館で展示されます。清浄光寺(遊行寺)所蔵の国宝「一遍聖絵」全十二巻のうちの第七巻は、“絵部分”が江戸時代の模写なのです(左図版参照<部分>)。この模写を含んで国宝となっています。全巻正真正銘の国宝です。絵部分の原本は事情(ワケ)あって、現在は東京国立博物館の所蔵となっています。詞書部分一部が後補ではないところがミステリー。こちらも国宝で、この作品が東京国立博物館で11月3日(火)より展示されます。文字通り、初めての全巻公開です。図録では、同館の瀬谷愛さんが「ふたつの第七巻」というコラムを書いています。乞ご参考。

遊行寺宝物館ホームページ掲載の「本日の展示」 Q:11月16日(月)までは遊行寺宝物館で全巻観覧できるのでしょうか?
A:全巻観覧はできますが、展示場面は限られています(下記リンク参照・右図のような図面が掲載されてます)。

遊行寺宝物館リニューアルオープン記念 特別展「国宝 一遍聖絵」
http://homepage2.nifty.com/yugyoji-museum/tenran.htm


 作品の保護と展示スペースの制約が理由です。ですから、場面替えも当然に行われます。場面替えを考慮すると、かなりの部分が観覧できることになると思います。
 その後は下記のような具合です。
11月19日(木)から、神奈川県立金沢文庫では第二、三、八、九巻(一部展示替えあり)
11月20日(金)から、遊行寺宝物館では第一、七、十一、十二巻(一部展示替えあり)
11月21日(土)から、神奈川県立歴史博物館では第四、五、六、十巻(展示替えなし)
11月後半の3会場体制以降は、新たな展示作品とともに多くの画面が観覧できることになります。半券持参の優待もあります(制約あり)ので“何遍”でもどうぞ。お待ちしております。(F)

第3回 いよいよ!
2015.10.13
「特別展「国宝 一遍聖絵」開会のセレモニー  10月9日(金)午後、さわやかな秋空のもと、神奈川県藤沢市の清浄光寺(遊行寺)にて、遊行寺宝物館リニューアルオープン、特別展「国宝 一遍聖絵」開会のセレモニーが開催されました。県博担当者Fは司会役で、Kは受付で、お手伝いしてきました。
藤沢市長、清浄光寺ご住職、特別展主催3館の館長が集い、テープカット  新しい宝物館、黒い屋根と白い壁のコントラストに「遊行寺宝物館」の金文字がよく映えます。開会式では、入り口に続く歩道(これも新しく敷かれました!)の上で、藤沢市長、清浄光寺ご住職、特別展主催3館の館長が集い、テープカットも行われました。
 開会式ののち、特別展の内覧会へ。コンパクトな展示室は出席の方でいっぱいになりました。前日までの展示作業には、県博と県立金沢文庫の担当者もお手伝いにうかがいました。作品の安全を第一に、でも、時間の限りもある中で効率的に手際よく、緊張の続く作業でしたが、パネルやキャプションなども整い、無事に皆様にご覧いただくことができて、担当者一同ほっとしています。
「特別展「国宝 一遍聖絵」開会のセレモニー  国宝「一遍聖絵」は壁ケースとのぞきケースに展示されています。11月16日までは、各巻それぞれ場面替えをしながら全十二巻を展示する予定とのこと。開会直後の今は、どの巻も特に有名な場面が選ばれて展示されています。初めて踊り念仏を修する場面(第四巻)、展覧会チラシのメインにもなっている、鎌倉入りを制止される場面(第五巻)など、名場面に出会えます。
 境内のオオイチョウも色づく季節。聖絵公開に湧く秋の藤沢へ、お出かけになってみてはいかがでしょうか。(K)

第2回 究極の一冊
2015.10.9
「国宝 一遍聖絵」展チラシとポスター  「国宝 一遍聖絵」展、担当Fです。
 今回は図録について・・・。
 展覧会に行くと必ず目にするのが図版目録、いわゆる図録です。今回の企画では、「一遍聖絵」という絵巻の傑作を存分にご覧いただくことを意図しているので、図録のつくりにも一工夫加えてみました。
「国宝 一遍聖絵」展チラシとポスター  絵巻は右から左に横長の画面を見ていくものですから、画面を生かそうとすれば横長横開きの本が自然なわけなんですが、この体裁ではどうにも本棚への収まりが悪い。かといって、普通の縦長本にしてしまうと画面の横寸が限られてしまい、絵巻の名場面集みたいな本しかできなくなってしまいます。
 そこで今回は、見開きページ左右裁ち落としとして画面を連続させて最大限入れることにしました。のど(頁と頁の間の綴じ目)の部分が気になるところですが、ページを開ききっても割れなどが起こらないような特殊加工を施しました。開ききると、本の背に折れ筋が入りやすくなるので、背表紙をのり付けせずに浮かせてあり見た目もGOOD。あとは綴じ目に重要な場面がこないことを祈るばかり・・・。何とかなったと思います。
「国宝 一遍聖絵」展チラシとポスター  この本は、「一遍聖絵」の全十二巻の絵部分+東京国立博物館本の第七巻をすべて所収しています。遊行寺宝物館担当者の“超訳”もついています。絵がいのちですから図版の色再現がいいのはもちろんです。図版がきれいで、軽くて、版型はハンディなB5サイズ。これなら図録を持ち運ぶのが苦になりませんね!
 図録は第1会場遊行寺宝物館が開館となる10月10日から同館、神奈川県立歴史博物館で販売いたします(同金沢文庫では近日中)。ぜひ手にとってご覧ください。(F)

第1回 「国宝 一遍聖絵」展、まもなく開幕です。
2015.10.6
「国宝 一遍聖絵」展チラシとポスター  鎌倉時代絵巻の至宝として知られる、国宝「一遍聖絵」。平成27年秋、遊行寺宝物館、神奈川県立歴史博物館、神奈川県立金沢文庫の3館共催で、全十二巻を公開する特別展を開催します。
 ふだんは、全十二巻のうち、一年に1回、1巻、2週間ほど公開を許される、たいへん貴重な絵巻。今回全巻を公開することがかなうのは、「一遍聖絵」を所蔵する時宗総本山清浄光寺(遊行寺)でその管理を担う遊行寺宝物館が今秋リニューアルオープンを迎えることによるものです。
 まず、10月10日(土)から、第1会場となる遊行寺宝物館で全十二巻を公開。11月下旬からは、第2会場の県立歴史博物館、第3会場の県立金沢文庫が加わり、4巻ずつを3会場で公開します。時期を合わせて、東京国立博物館では「聖絵」全十二巻から第七巻の絵のみが分かれた1巻が公開されることになっています。
 各館の情報や、公開巻、ほかの展示作品、関連イベント等を掲載したチラシや、ポスターもできました。まもなく各所で皆様の目にとまるものと思います。

チラシのPDFファイルがダウンロードできます [pdf/4.34MB]

 歴史の教科書で、日本美術史の解説書で、あるいはほかのどこかで、一度は目にしたことのある名宝「一遍聖絵」。全巻公開の機会を、どうぞお見逃しなく。
 特設ページ「捨聖一遍 学芸員遊行のままに」では、担当学芸員の視点で、展覧会にかかわる様々なお話をお伝えしていきます。(K)
神奈川県立歴史博物館