展覧会概要
明治の美術の魅力を語ろう。それは、大きな希望といってよい。
そして、その希望の足元にあったのは、大きな荒廃だった。19世紀となり、世界史的にも大きな変動を経験していく。そのさなかにあって、江戸幕府は制度的に限界を迎え、新たな統治体制が希求された。その望みの具体的なあらわれとして1867年に大政奉還が行われ、翌1868年に新たな希望の時代の幕開けの宣言として、「明治」という元号に改められたのである。もちろん以上のように単純に割り切れることばかりではなかったが、しかし、そのような混沌とした時代状況だったからこそ、なおさらに強く希望を抱き、時代を切り拓くこうと試みた人間が多かった。そのような試みは、政治経済の世界にとどまらず、美術の世界も同様だった。明治の美術をひとまとめに論じることは無謀だが、しかし、特にその前半期の営みに総じて込められているのは、新時代への強い希望であり、また新メディアを駆使することへの憧れや喜びだといえる。
本展覧会では、特に幕末から明治前半期の「美術」という営みに注目し、名品優品を紹介しつつ、その時代の力強さや多様性に迫る。西洋に追いつき、追い越そうとした作家たちの苦闘。成功や挫折の痕跡を、作品や資料から具体的に示す。この考察にあたり、メディア=作品のかたちを切り口として、絵画・立体・印刷の三点を据え、それをまた展示の柱とする。各ジャンルがクロスオーバーしながら、明治という時代相が浮き上がることを期待しよう。
神奈川県立歴史博物館は、前身である県立博物館が1967年に開館して以来、50年間にわたり、横浜に立地することから近代美術の調査研究ならびに収集保管を継続してきた。近年では特別展として「横浜・東京―明治の輸出陶磁器」「没後100年 五姓田義松―最後の天才―」を開催、またそのほか関連する近代美術の作品や資料を数多くご恵贈いただいてきた。本展覧会にならぶ作品の多くが以上の活動のまさに精華である。明治150年を記念するこの年に本展を開催し、これからの美術の営みを含め、また新たな時代への希望のあかりを灯そう。