展示

初代広重「冨士三十六景」 ―富士山をのぞむ日本の名所風景―

今月の逸品」では、学芸員が交代で収蔵資料の魅力を紹介します。

2018年8月の逸品(展示期間:7月24日~9月2日頃 ミュージアムトーク:8月15日)

初代広重「冨士三十六景」 ―富士山をのぞむ日本の名所風景―

初代広重「冨士三十六景」 ―富士山をのぞむ日本の名所風景―

冨士三十六景 甲斐大月の原(当館所蔵)

富士山を主題とする浮世絵では、「神奈川沖浪裏」を代表格とする葛飾北斎の「冨嶽三十六景」シリーズが有名です。しかし、東海道のシリーズが人気の初代歌川広重(1797~1858)も富士山のシリーズを出版しています。今回はその一つである「冨士三十六景」(安政5年・1858年刊行)についてご紹介します。

「冨士三十六景」はこの4月から、目録に記された順番に展示し、7月24日から最後の12点を展示中です。このシリーズも含め、広重は晩年に日本各地を取り上げた「六十余州名所図会」、「名所江戸百景」など、風景をタテ長の画面に描くシリーズを手がけました。

展示中の作品は現在の三重、静岡、山梨、長野、千葉の各県から富士山をのぞんでいますが、タテ型の画面の中で富士山の位置や大きさはさまざまです。その風景もさまざまですが、川、湖、海などを含む景色は、水の青さが空の青さに呼応して清々しさを感じさせます。また、「甲斐大月の原」(図版)に描かれた色とりどりの秋草は、日本に四季折々の風景があることを雄弁に語ります。

もちろん富士山は東海道シリーズや江戸名所シリーズの浮世絵にも繰り返し描かれました。現代の日本人も富士山が見える場所に行けば、その姿をのぞもうとします。私たち日本人の心にある富士山へのあこがれは、広重の時代も今も変わらないように思います。この機会に広重の作品を見て、富士山へ思いを馳せていただければ幸いです。(桑山 童奈・当館主任学芸員)

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