展示
日本語ワードプロセッサーJW-10モデル2
ウェブサイトへの記事掲載と常設展示室でのギャラリートークの連動企画「今月の逸品」は、当面の間、ウェブサイトのみでの展開とし、詳しい解説で学芸員おすすめ資料の魅力をお伝えします。
2022年1月の逸品
日本語ワードプロセッサーJW-10モデル2
人間は、言語を操る生きものです。言語は、長らく話したり書いたりするものでしたが、現代社会では、さらに「入力するもの」でもあります。
パソコンのキーボードで文字を入力する。スマートフォンの画面で文字を入力する。マイクに向かって音声で文字を入力する。現代社会で日々繰り返される「文字を入力する」という行為は、パソコンやスマートフォンといった電子機器の登場と普及に伴って当たり前のものになりました。
文字の入力、とりわけ日本語の入力について、現在につながる繰り返しの原点に位置する機器があります。1978(昭和53)年に東京芝浦電気(現東芝)が発表した、日本初の日本語ワードプロセッサーJW-10です。
JW-10は、初めて日本語を「仮名漢字変換」によって入力する技術を実用した電子計算機でした(注1)。電子機器で文字を入力する際、日本語の特徴として「変換」の問題があります。例えば、ここで「例えば」という言葉を入力する場合に、私はまず「たとえば」と入力してから、これを変換して「例えば」と確定しました。「例」「え」「ば」と1文字ずつ直接入力したのではありません。
漢字は、平仮名やローマ字と比べて膨大な数があります。漢字の海のなかから「例」の文字を拾い上げる作業は、実に大変です。現在、私がその作業をせずに変換によって漢字を入力できるのは、「仮名漢字変換」という技術の恩恵を受けているわけです。
JW-10モデル2は、JW-10の後継機として1980(昭和55)年5月に発表され7月から発売されました。その大きさは横幅約1.2m、高さ約80cm、奥行約1m。キーボードやモニターが事務机と一体化したような形をしています(図1)。
躯体こそは現在のパソコンと比べて圧倒的な存在感を持ちますが、キーボードは現在使われているものと似ています。平仮名、ローマ字、数字、記号を記したキーが48個あるほか、「次候補」や「選択」といった機能を持つものが並んでいます(図2)。
平仮名やローマ字で入力した単語を変換し、数ある候補のなかから選択して決定するという動作は、この機器が使われていた頃から約40年を経た現在では日々繰り返される当たり前の動作になりました。
この機器を前にすると、40年後の未来に生きる人々は、どのようにして文字を入力しているのだろうかと思いを馳せてしまいます。(武田 周一郎・当館学芸員)
注1:東芝未来科学館 1号機ものがたり 日本初の日本語ワードプロセッサー
https://toshiba-mirai-kagakukan.jp/learn/history/ichigoki/1978word_pro/index_j.htm
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