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ハニワのファッションから何がわかるか?
学芸員のおすすめ収蔵資料の魅力を詳しい解説でお伝えする「今月の逸品」。休館中はウェブサイトのみでのご紹介になります。
2025年5月の逸品
ハニワのファッションから何がわかるか?
1.ハニワの魅力とは?
近年、ハニワが再び注目を集めています。2024年後半に東京国立博物館で開催された特別展「はにわ」や、東京国立近代美術館の企画展「ハニワと土偶の近代」は大きな話題を呼び、テレビや新聞など各種メディアでも数多く取り上げられました。しかし、実はハニワ人気は今に始まったことではありません。高度経済成長期にはオカルトブームの中で注目され、戦前には武人のハニワが戦意高揚の象徴として扱われるなど、時代ごとに異なる文脈で人々の関心を集めてきました。
では、私たちはなぜハニワに魅せられるのでしょうか。その理由の一つは「親しみやすさ」にあると考えられます。丸みを帯びた素朴な造形、無表情ながらもどこかユーモラスで温かみのある顔立ち。歴史的資料としての重厚さを持ちながらも、子どもでも親しみを感じられるデザインは、時代を越えて多くの人の心をつかんできたのです。
2.ハニワは何のために造られたのか?
そもそもハニワとは、古墳時代(3世紀後半〜7世紀)に築かれた大型墳墓の上に並べられていた素焼きの土製品です。漢字では「埴輪」と書き、「埴」は粘土を意味し、「輪」は筒状の形または環状の配置を表すといわれています。ハニワは、葬送儀礼に関わる儀式的な意味合いもあれば、装飾的な役割も果たしていたと考えられています。
ハニワには大きく分けて2つの種類があります。ひとつは「円筒埴輪(えんとうはにわ)」で、背の高い植木鉢のような形をしています。古墳の輪郭に沿って並べられることが多く、200体以上が配置された古墳も確認されており、出土数も多く見られます。もうひとつは「形象埴輪(けいしょうはにわ)」で、人や動物、家、道具など様々な形をしたものです。中でも人物をかたどったハニワは特に表現が豊かで、服装や髪型持ち物から性別や職業、身分が読み取れます。複数の人物型埴輪を古墳に配置することで、当時の儀式の一場面を再現していると考えられています。古墳に埋葬された「王」を称える儀式が、常に古墳の上で行われています。
3.ハニワから知る当時のファッション
神奈川県内は、全国的に見てもハニワの出土数は多くありません。特に形象埴輪はきちんと形が残っているものが数点ほどで、貴重な存在です。県内でハニワが多く現れるのは、近畿地方でハニワ製作が減少した古墳時代後期(6世紀以降)にあたります。今回紹介する当館所蔵のハニワ(図1)もその時期に作られたものです。出土したのは、横須賀市蓼原(たではら)古墳です。この古墳からは他にも琴を弾く男子ハニワや家形ハニワが出土しており、複数のハニワで儀式の様子を表現していたと考えられています。しかし、ハニワ1体からも判ることは少なくはありません。今回は、そのひとつである「当時のファッション(装飾表現)」についてご紹介します。
まず姿勢を見ると、右手を胸の前に、左手を腰の位置に下げ、両手で棒状の捧げ物を持っていたと見られるポーズ。そして、乳房の表現から女性であるとわかり、儀式に従事する巫女を表していると考えられています。
注目すべきはそのヘアスタイルです。頭の上に座布団のようなものを載せていますが、これは「古墳島田(こふんしまだ)」と呼ばれる当時の女性の髪型の1つです。このハニワではデフォルメされていてわかりにくいですが、他の出土例や研究から、ポニーテール状に結った髪を前に持ってきて、頭上で折り返して束ねたスタイルであると推測されています。髪が崩れないように、リボンやカチューシャのようなものでまとめ、前からは櫛やハチマキで整えていたと考えられています。現代でいえば、スタイリストのような人の手で丁寧に整えられていたのでしょう。
次にアクセサリーを見ていきます。まず耳には、「耳管(じかん)」と呼ばれる円環状のピアスが両耳につけられていることがわかります(図2)。輪が2つありますが、これは2連のピアスというわけではなく、上の輪が耳、下の輪がピアスの表現であるとされています。首元には、ネックレスが見られます。これは、勾玉(まがたま)と管玉(くだたま)を交互に紐に通して作られたもので、実際に古墳からもこうしたネックレスが出土しています。ハニワからは、勾玉の向きや装着方法など、より具体的な情報が得られる点が注目されます。
残念ながら、このハニワは下半身が欠損しているため、それより下の衣装などはわかっていません。しかし、上半身の造形だけでも多くの情報が読み取れます。これらの装飾表現を他地域のハニワと比較すると、群馬県域で出土したものと共通点があることがわかっています。群馬県は古墳時代の関東地方において、近畿地方との結びつきが特に強かった地域であり、ハニワの製作にもその影響が強く及んでいたと考えられます。
こうしたファッションを読み解くことで、当時の人々の美意識や性差の感覚を垣間見ることができ、ハニワを観察することがより興味深くなります。少し専門的な内容ではありますが、分かりやすく紹介している書籍もありますので、そうした本を片手に博物館で「ファッションチェック」をしてみるのも面白いのではないでしょうか。
(佐藤 兼理・当館学芸員)
参考文献
若狭徹2009『もっと知りたいはにわの世界 古代社会からのメッセージ』東京美術
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