展示
三頭獅子舞(さんとうししまい)
学芸員のおすすめ収蔵資料の魅力を詳しい解説でお伝えする「今月の逸品」。休館中はウェブサイトのみでのご紹介になります。
2026年6月の逸品
三頭獅子舞(さんとうししまい)
はじめに
常設展示の民俗展示室には、「世代を超え、受け継がれる技術 ―伝統工芸と伝統芸能―」のコーナーがあります。ここでは「国・県指定無形民俗文化財 デジタルコンテンツ」として、神奈川県内各地で執り行われているおまつりや民俗芸能20件をそれぞれ1分前後にまとめた動画で紹介しています(2026年6月時点)。今回はこの中から、県指定無形民俗文化財となっている以下の6件の「一人立ち三頭(匹)獅子舞」について紹介します。獅子舞というと、お正月に練り歩くイメージがありますが、今回紹介するものは少し趣がちがいます。まずは獅子舞の種類について見ていきましょう。
| 行事名称 | 実施日 | 実施場所 | 舞手 | |
|---|---|---|---|---|
| 図1 | 下九沢の獅子舞 | 8月26日 | 相模原市緑区下九沢(下九沢御嶽神社) | 剣獅子、女(玉)獅子、巻獅子、鬼面の岡崎 |
| 図2 | 大島の獅子舞 | 8月下旬の土曜日又は日曜日 | 相模原市緑区大島(大島諏訪明神) | 剣獅子、雌(玉)獅子、巻獅子、天狗、岡崎、鬼 |
| 図3 | 菅の獅子舞 | 9月12日に近い日曜日 | 川崎市多摩区菅(薬師堂) | 雄獅子、雌獅子、臼獅子、天狗 |
| 図4 | 初山の獅子舞 | 10月第1日曜日 | 川崎市宮前区菅生(菅生神社) | 剣獅子、玉獅子、巻獅子、天狗面の幣(へい)負い |
| 図5 | 鉄の獅子舞 | 10月第1日曜日 | 横浜市青葉区鉄町(鉄神社) | 剣獅子、玉獅子、巻獅子、天狗・ヒョットコ面のはい(蝿・幣)追い |
| 図6 | 牛込の獅子舞 | 10月上旬の土日 | 横浜市青葉区あざみ野(神明社)・新石川(驚神社) | 剣角(つるぎづの)、宝珠、巻角、面なしのはい(蠅・幣)追い |
一人立ち三頭(匹)獅子舞
常獅子舞には、大きく分けて「一人立ち獅子舞」と「二人立ち獅子舞」があります。一人立ち獅子舞は文字どおり一人が獅子頭を被って舞うものです。二人立ち獅子舞は一人が前立ちとして獅子頭を被り、もう一人が後立ちとして布の後方を持つものです。表の6件の獅子舞は、いずれも獅子頭を被り、腹部に抱いた鞨鼓(かっこ)を叩きながら舞う獅子が三頭一組になった「一人立ち三頭獅子舞」といわれるものです。この舞の形式は東北地方から関東地方を中心に東日本に多くみられ、西日本ではほとんどみられません。県内では、横浜市、川崎市、相模原市、愛川町で現在も行われています(註1)。
獅子の装い
三頭の獅子頭はそれぞれ頭部の装飾が異なり、それにちなんで各獅子は[1]剣獅子(大獅子・雄獅子・父獅子とも)、[2]玉獅子(宝珠)(雌獅子・母獅子、巻獅子[渦巻型の角を持つ]とも)、[3]臼(きゅう)獅子(子獅子とも)などと呼ばれています。場所によってそれぞれの獅子の呼称は異なりますが、雄獅子が二頭([1][3])、雌獅子が一頭([2])で舞うことは共通しています(表の舞手の欄でも雄獅子、雌獅子、雄獅子の順に記載)。鉄の獅子頭は頭頂部に長い鳥の羽をびっしりと挿し、後頭部には各家から集めた御札や色紙をつなげて長く垂らしています(図5部分)。大島の獅子頭は赤熊(しゃぐま)をつけています(図2部分)。加えて獅子の装いには人目を引く華やかなものもあります。下九沢では上半身に華やかな吉祥文を染めた布を羽織ってなびかせ(図1部分)、牛込では鮮やかな赤布をまとっています(図6部分)。このように趣向をこらした意匠をもつ一人立ち三頭獅子舞を風流(ふりゅう)獅子舞ともいいます。
三頭獅子以外の舞手
また、三頭の獅子だけでなく、他の舞手が加わる場所もあります(註2)。牛込でははい追い(蝿・幣[へい]負いとも)、菅と初山では天狗、大島では天狗・鬼・岡崎(ヒョットコの異称)、鉄ではヒョットコ面のはい(蝿・幣)追い(図5部分)、下九沢では鬼面の岡崎(図1部分)が登場します。これらの登場人物は舞の進行や道化役を担います。
進行役 獅子舞を行う場所には、土俵の舞場が設けられているところもあります。菅では、天狗が三頭の獅子に先立って土俵入りし、後に続く獅子たちを招き入れます。大島では、天狗が舞場の結界を剣で切って結界内の幣束を抜き、幣束を立てていた土盛りを足で蹴り崩します。これが終わってから三頭の獅子とそれ以外の舞手が入場して舞が始まります。牛込でははい追いが舞の一節ごとに「ヨーイ」と発声してから舞を開始します。
道化役 菅の天狗は三頭の獅子を相手に、目の数を細工したさいころでいかさま博打(ばくち)を行います。この賭博は案の定いかさまをした天狗の勝ちとなり、金品にみたてた三頭の持ち分の土俵の砂を自身の懐に入れて大喜びします。獅子たちはいかさまには気が付いていない様子です。そして天狗は懐に入れた大量の戦利品のせいで足をふらつかせながら舞います。また、酒を飲みすぎて酔いつぶれるなど、ユーモラスな所作で観衆を楽しませます。
初山の天狗も獅子たちを相手に博打をし、博打に勝つと飛び跳ねて大喜びをします。
下九沢の岡崎は、舞の始まりは三頭の獅子と舞っていますが、途中から土俵の外に出て観衆に話しかけたりちょっかいを出したりします。その後は元の通りに三頭の獅子と舞います。また、気温が高い中で舞うため、舞の最中に獅子達に扇で風を送ってやるなど、かいがいしくもあります。
いずれも獅子に比べて自由度と表現の幅が広く、何度も同じ所作が繰り返される舞において、ほどよいアクセントになっているといえるでしょう。
雌獅子隠し
舞の見どころの一つに、隠れた雌獅子をめぐって他の二頭が探したり争ったりする雌獅子隠しと呼ばれるものがあります。菅では、天狗と臼獅子が土俵の中央にうずくまった雌獅子を雄獅子から隠し、雌獅子を遠ざけようとします。雄獅子が雌獅子を見つけたあとは、臼獅子と雌獅子をめぐって争う舞いが行われます。鉄の雌獅子隠しでは、
思いもよらぬ 朝霧がおりて ここで女シシが隠された
なんぼ女シシがかくれても 何時か一度は めぐり逢うよな
嬉しやな 風に霧が吹きあげて 女シシ男シシが 肩を並べた
という歌を笛、太鼓、ササラなどに合わせて謡手が唱和します(註3)。雌獅子隠しが終わると、三頭は再び息を合わせて舞を再開します。雌獅子隠しが行われる他の場所でもほぼ同様の歌が唱和されています。
おわりに
以上、三頭獅子舞の魅力を簡略ながら紹介しましたが、民俗展示室内で視聴できる動画はいずれも1分前後です。保存団体によっては、少子化や高齢化のため後継者不足に悩むところもあるそうです。そのため、中にはまだ体の小さい子どもや高齢の方が暑い中で重い獅子頭をつけて演じているところもあり、その苦労が偲ばれます。このような状況の中で、まつりや民俗芸能の“今”を記録として残していくことは重要だと考えます。これからも民俗行事を記録映像として残していく予定です。今後のコンテンツの追加にご期待ください。
ご興味を持った方はぜひ現地に出かけて見学をしてみてはいかがでしょうか。その時はどうか見学・撮影マナーをお忘れなく。
(新井 裕美・当館主任学芸員)
画像
図1:2025年8月26日撮影
図2:2025年8月24日撮影
図3:2024年9月15日撮影
図4:2024年10月6日撮影
図5:2025年10月5日撮影
図6:2024年10月13日撮影
参考文献
永田衡吉『神奈川県民俗芸能誌』増補改訂版、錦正社、1987年。
神奈川県立歴史博物館『かながわの三匹獅子舞 獅子頭の世界』(特別展図録)、2005年。
- 過去の「今月の逸品」は、「過去の今月の逸品」をご覧ください。

