【地学×歴史】
おうちで楽しむ地形・地質と石材関連遺産(令和4年8月3日公開)
(パンチの守)カメよ、これがなんの写真かわかるかな?
(犬のカメ)はい!パンチの守様!これは・・・ずばり石です!石が2つあります!
うむ!確かにこれは石だが他に気づいたことはあるかな?
ほかに??石は石ですよ!しいて言えば・・・うーん・・・左はちょっと灰色っぽい石で、右は白っぽい石?・・・右の石はどこかで見たことあるような?
お!よいところに気が付いたのう!これは「白丁場石(しろちょうばいし)」という石じゃ!当館の外壁にはこの白丁場石が使われているのじゃ!
なるほど!だからどこかで見たことがあるような気がしたんですね!では左の石は何の石ですか?
左の石も白丁場石じゃ!白丁場石は湯河原町鍛冶屋から産出される石で、新鮮なものは灰色なのじゃが、変質により白色化するのじゃ。
なんと!両方同じ石なんですか!では当館の白丁場石は結構白色化しているということですね!
うむ!では次の問題じゃ!この写真は何の写真かわかるかな?
はい!これは当館の外壁の写真です!毎日見ていますからね!さすがにこれはわかりますよ!これが白丁場石なんですね!
うむ。半分正解じゃ!右は白丁場石で、左は花崗岩なのじゃ!当館の外壁で2階と3階の平坦な部分には白丁場石が、1階の壁や柱頭や窓枠といった加工が施されている部分には花崗岩が使われているのじゃ!
え!今度は右と左がちがう石なんですか!?それはさすがにひっかけ問題ですよ!
ワハハハハ!すまん、すまん!でも勉強になったじゃろう?
そうですね。毎日見ていたのに気にも留めませんでしたが、改めて考えてみると石の世界も奥が深そうですね!
お。石に興味をもったようじゃのう。では神奈川県内の石の世界をちょっと覗いてみてみようかのう。まずは真鶴町に行ってみるか。
パンチの守さま、なんで石の勉強をするのに真鶴なんですか?
真鶴町は良質の安山岩を主とする良質の石材が豊富で、古くから石材業が盛んなのじゃ。
あんざんがん?
安山岩は火山岩の一種で、地表に噴き出た溶岩が短時間で冷やされたときに作られるのじゃ。
溶岩?はてどこから溶岩が?
箱根火山じゃよ。箱根は約40万年前から活動している火山なのじゃ。どれ簡単に箱根火山の成り立ちについて説明しておこうかのう。
箱根火山の成り立ち
約40万年前から23万年前
箱根火山は度重なる噴火を起こして、小規模な富士山のような成層火山(溶岩と火山灰が交互に積み重なってできた火山)がいくつもできたのじゃ!金時山、明神ケ岳、明星ケ岳などはこの時期に形成されたのじゃ!
約23万年前から13万年前
噴火の形態が変わって、山を吹き飛ばすような爆発的な噴火を起こすようになったのじゃ。吹き飛ばすことによって、箱根火山の中央にカルデラというくぼみができたのじゃ。その後も活動を起こして今の姿になっているのじゃ。
【参考動画】生命の星・地球博物館 火山実験動画<みんなで作った箱根火山>
約23万年前から13万年前、箱根火山は山の中央では爆発的な噴火を起こしていたんじゃが、山のすそ野では、御殿場の方向と真鶴の方向に沿って、火口から大量の溶岩を噴出していたのじゃ。山の中央から流れ出た溶岩ではなく、山のすそ野で爆発的な噴火がおこり、溶岩が流れて出ていたのじゃ。だから箱根から真鶴にかけて斜めに低くなっているのではなく、所々高くなっているのじゃ。
その流れ出た溶岩が固まって真鶴半島を形成していったんですね!だから良質な安山岩が採れるんですね!
そうじゃな。では実際に真鶴の景色を見ていこうか。
三ツ石海岸(真鶴半島の一番先)
この付近の海岸は、約15万年前に噴出した溶岩によって作られたものじゃ。
うわ~!海だ!横浜の海もいいけど真鶴の海も素敵ですね!
そうじゃな。石材をすぐに海上に運び出せるという点も、真鶴で石材業が発展した大きな要因なのじゃ。江戸時代には江戸城にも運び出され、明治以降、近代建築にも多く使われていたのじゃ。ちなみに「神奈川県鳥瞰図で東京と真鶴の位置を見るとこんな感じじゃ。
神奈川県鳥瞰図
ちなみにこの「神奈川県鳥瞰図」は神奈川県立歴史博物館で開催する特別展「地図最前線-紙の地図からデジタルマップへ-」後期で実物を展示します!
2022年7月16日(土)~9月25日(日)
(前期)7月16日(土)~8月14日(日)
(後期)8月16日(火)~9月25日(日)
新小松石と本小松石
では真鶴で採れる石について説明しようかのう。真鶴駅の山側にある小松山から採れる石を「小松石」と呼んでいたのじゃ。その後、JR東海道線よりも山側で採れる石を「本小松石」、海側で採れる石を「新小松石」と呼ぶようになったのじゃ。
山側と海側で採れる石に違いがあるんですか?
山側で採れる「本小松石」は穴も結晶も少なく、緻密で固いのが特徴じゃ。石の色には青目と赤目があるのじゃ。海側で採れる「新小松石」は穴も結晶も多いことが特徴じゃ。
本当だ!海岸には穴があいていて、粒粒がある石が多いですね!
穴は溶岩に含まれていたガスが抜けた後で、粒粒は溶岩に含まれていた結晶じゃ。
番場浦
ここが実際に石材を切り出していた番場浦の石丁場じゃ!各所に石を切り出す際にあけられた矢穴の跡が残されているぞ。
本当だ!石を切り出したあとがよくわかりますね!番場浦は幕末以降の石切り場ですが、近世には真鶴半島から切り出された石は江戸まで運ばれていたそうですよ。
石の切り出し方はまず石に「矢穴」と呼ばれる穴を空け、その「矢穴」に「矢」と言われる金属をトンカチなどで打ち込んでいくと一定のヒビが入った所で、石が割れるのじゃ
貴船神社
海の次は、山側で採れる「本小松石」について見てみよう。
うわあ!ここが「本小松石」が多く使われている貴船神社ですね!
よく見てみると先ほど見てきた「新小松石」より穴が少なく、粒粒も少ないのが分かるじゃろう?
うわあ!本当だ!同じ真鶴でとれる石なのに違うんですね!
しとどの窟
ここは貴船神社の近くにあるしとどの窟じゃ。1180年、石橋山の戦いで平家に敗れた源頼朝が箱根山中をさまよった後、この地にあった窟(いわや)に身を隠し、安房国へと脱出したと伝えられておるのじゃ。窟自体は波による浸食でできた海蝕洞窟じゃ。
波?思いっきり陸地じゃないですか?海岸まで結構距離があるのにどうやって波が侵食するんですか?
大正関東地震(1923年)による隆起によって、現在の高度となったのじゃ。当時はこの辺も海だったのじゃ。
石工先祖碑
次は真鶴石材業の歴史を学んでみるか。岩地区へ移動するぞ。
パンチの守さま、これは何ですか?
これは「石工先祖碑」じゃ。岩地区には真鶴町の石材業を支えた人々の功績をたたえてたてられたもので、真鶴町の石材業の歴史が刻まれているのじゃ。石碑全文の現代語訳は真鶴町民俗資料館で読むことができるぞ!
へえ!ぜひ読んでみたいな!
では真鶴町民俗資料館で勉強させてもらうことにしようかのう!サクサク移動じゃ!
真鶴町民俗資料館
ここは個人のお宅ですか?
ここは真鶴の石材業の歴史を語る上で欠かすことのできない土屋家の邸宅だったのじゃ。現在は民俗資料館となっており、真鶴の歴史を学ぶことができるぞ。現在は土日祝日のみ開館しているぞ。
お邪魔します!うわ!この肖像画はどなたですか?
この肖像画は、土屋大次郎氏じゃ。どれ土屋大次郎氏について簡単に説明しておくかのう。
● 土屋大次郎氏
1857(安政4)年に岩村(現在の岩地区)の石工・武川半三郎の次男として生まれ、のちに土屋家の養子となり、土屋商店を開業して石材の採掘・輸送・販売・据付などの事業を展開。
岩・真鶴などの神奈川県西部産の安山岩を取扱い、東京湾要塞の砲台群や横浜船渠・浦賀船渠のドックなどに石材を供給する一方で、1903(明治36)年に茨城県西茨城郡西山内村稲田(現笠間市)へ進出し、花崗岩の採掘にも参入した。
1903年に神奈川県会議員、1909年には衆議院議員に当選するが、翌1910年に亡くなられた。
横浜船渠(せんきょ)?
現在のドックヤードガーデンじゃな。船の建造・修理などを行っていたところじゃ!
なんと!神奈川県立歴史博物館のご近所じゃないですか!ドックヤードガーデンの石材は土屋大次郎さんが納入したものだったんですね!ご縁を感じますね!
これが先ほど話していた石工先祖碑の現代語訳じゃ!
おお! 先ほどの碑はこんな歴史があったのですね!
如来寺跡
カメよ、海岸にいるときに箱根火山と真鶴の地形の成り立ちについて説明したのを覚えているかのう?
えーっと、箱根山のすそ野で火山がたくさん爆発して、その時流れ出た溶岩が固まって真鶴が形成されていったんですよね!
そのとおり!岩地区でも真鶴の地形の成り立ちが分かる場所があるのじゃ!
へえ!じゃあ早速見に行きましょう!
そこは如来寺跡という場所なんじゃが、現在は見学ができないのじゃ。
それは残念!
だがしかし、この真鶴町民俗資料館さんでは如来寺の写真と説明があるので大丈夫じゃ!
なんと!では早速説明をお願いします!
うむ!火山の噴火により、火口から噴出された火山粉砕物が、火口の周辺に積み重なってできる比較的小型の円錐状の火山のことを火砕丘というのじゃ。如来寺跡の境内洞窟の中では火砕丘の断面を見ることができるのじゃ。壁の石が赤く見えるのは大気と触れて酸化したためなのじゃ!
へえ!境内に洞窟があるんですか!
洞窟の中には、閻魔王をはじめとした十王像、大日如来像、聖観世音菩薩形坐像が安置されていて、石仏の作者、但唱によって地獄と極楽の世界が表現されているのじゃ!
うわぁ!いつか本物を見られるといいな!
そうじゃのう。さて、真鶴の石材関連遺産についてはこのくらいにしておこうかのう。今回お話した石材関連遺産のざっくりした位置関係をおさらいじゃ!
歴史博物館ではどうしても歴史の話がメインになってしまいますが、「地学×歴史」っていうのも面白いですね!
うむ!地学と歴史というのは切り離せないものでもあるのじゃ!ちなみに生命の星・地球博物館では2022年7月16日(土)から11月6日(日)まで特別展「みどころ沢山!かながわの大地」を開催するのじゃ!本特別展では、県全体を8エリアに分けて、地形、地質、化石の見どころを豊富な写真や標本で紹介するぞ。ぜひ見に行ってくれ!
https://nh.kanagawa-museum.jp/www/contents/1599078127549/index.html
【監修・協力】
生命の星・地球博物館 情報資料課長 山下浩之
真鶴町教育委員会 新井人志
真鶴町民俗資料館
※ 本ウェブサイトはJSPS科研費18K01111の研究成果のひとつです。
※ 本ウェブサイトは、2022年5月21日(土)に開催された現地見学会「真鶴の地形・地質と石材関連遺産」の内容に編集を加えたものです。
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